シモンの病室の前で、ユウリは息を整え、荷物を持ち直した。
一息ついて、そっとドアをノックする。
いつものように「どうぞ」という声が返るのを待ったけれど、病室はしんとしている。
(おかしいな。この時間にはいつも病室にいるのに?)
そっとドアノブを回してドアを開けると、ベッドの上にシモンの姿が見えた。ただし、いつもとは違う姿で。
(―――めずらしい!)
ユウリは目を見開いて、ふだんとは違った親友の姿を見た。
 いつもはにこやかな笑顔で自分を迎え入れてくれるシモンがベッドに横たわり、ぐっすりと眠っていたのだ。
ユウリは、シモンの寝顔を見たことがほとんどない。一年間は同室だったし、何度か同じベッドで寝たことさえあるのだが、いつも自分が先に寝入ってしまうため、寝ているシモンを見たことがあるのはほんのわずかだった。まして、こんなに明るい日の光の中で見る機会などなかった。
(気持ちよさそう。ぐっすり寝ている・・・)
ユウリは誘われるようにベッドに近づいていった。
溌剌として生気にあふれた瞳が閉じていると、まるで違う人間のような気がして、思わず見とれてしまう。
シモンは、長い手足を伸ばしてベッドにあおむけに横たわっていた。毛布を胸までかけ、腕は毛布の上にゆるやかに投げ出されている。淡い金髪は枕の上に広がり、日の光にまぶしくきらめいている。開襟パジャマの胸元が静かに上下しており、すらりとした首筋や鎖骨がのぞいて見える。形のよい唇は、薄く開かれていた。
 唇を見ると、数日前のことを思い出してしまい、頬が熱くなった。
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