デコチョコSSその1 ユウリ編
 
 
 
 
ヴァレンタインに気をつけて!

 

 
「「「うけとって、ユウリくん!」」」

ずらり取り囲まれ、目の前に差し出されたキラキラの包装紙。

「え、ええっ!?

ユウリは目を見張った。

 

 

 

 

ここは日本のとある小学校、体育館の裏手。

クラスの複数の女の子から「放課後、体育館の裏に来て」と呼び出された

ユウリ・フォーダムくん・小学三年生は、

嬉しさとドキドキと疑問をブレンドした状態で指定の場所へと赴いた。

ときは二月十四日。

他ならぬこの日であれば、いくら晩生のユウリにだって呼び出されたわけは察しがつく。

お菓子メーカーの戦略だとかなんとか言われつつ、日本でいちばんチョコレートが流通する、例の行事である。

「チョコもらえる。やったー!」という純粋な嬉しさと、「あの子、僕が好きなのかな?」というどきどき,

 

「でも、なんで十人も?」という疑問を抱いたユウリだったが、

体育館裏の暗く寒い場所で大勢の女子に取り囲まれたときには、そこに「恐怖」も加わった。

 

 

 

 

女の子たちはてんでに笑みを浮かべていた。

ある者は頬をそめてはにかみ、ある者は肉食系の動物を思わせる笑み・・・・

十人もいると、さすがにオーラが相乗効果で高まり、一種異様な雰囲気である。

そして、リーダー格の女子が「いくわよ」と号令をかけ、いっせいのせ!で、

カラフルでキラキラの包装紙の数々がユウリの目の前に差し出された。

「え、ええと・・・・これ、チョコだよね?」

「あったりまえじゃない!」

ユウリは青ざめた。

首をふるふると振って、思いっきり否定する。

「無理だよ、僕、そんなに付き合えないよ!」

「・・・・・・は?」

女の子たちの目が点になった。

「だって、ヴァレンタインのチョコって、付き合って欲しい人に送るんでしょう?」

自分で言っておきながら、ユウリはどんどん赤くなり、うつむいてしまった。

「愛の告白だって、CMでやってた・・・・」

女の子たちは、ほっと一息ついて、肩の力を抜いた。

そして、あっけらかんと笑った。

「大丈夫! これ、友チョコだから!」

「友チョコ?」

「うん。友だちにあげるから、友チョコ。友情のしるしってかんじ?」

「本当? ああーよかった!」

ユウリもほっとして力を抜いた。

女の子の一人が笑ってユウリの背中をドンッと叩いた。

「やーだぁ、告られたと思った?」

すると、ユウリの顔がさあっと赤く染まった。

「・・・・・・ごめん」

恥ずかしがって消え入りそうな声。でも、ちゃんと相手に謝ろうとする誠意が伝わる声と表情。

女の子たちのハートはキュキュキュ〜〜〜〜ンとうずいた。

(((なん・・・って、キュートなの!!)))

リーダー格の子が勢い込んで話しかけた。

「あ、あのね。こ、これ、あたしの手作りなんだ」

「作ったの? すごいね」

素直に感心するユウリ。すると、他の女子も負けじと一歩前に出る。

「あたしも、お姉ちゃんと作ったの」

「形、ちょっと崩れちゃったけど、絶対においしいからね!」

「味見しまくったから」

「うちのパパもおいしいって言ってくれたから大丈夫だよ」

「あの・・・・・・ちゃんと食べてね?」

「食べて感想教えてね!」

他の子にとられてたまるもんかと牽制しつつ、顔ではニコニコ笑ってチョコを押し付ける女の子たち。

ユウリの腕の中はたちまち赤やピンクや金色の包装紙でいっぱいになった。

女の子たちは満足そうに一歩さがり、可愛らしくふふっとほほえんで小首をかしげた。

「ユウリくん、これからもお友だちでいてね」

女の子たちの迫力に押されそうになりながら、ユウリはちらっと笑顔をみせた。

「あ・・・ありがと」

はにかむような、邪気のない純粋な笑顔。

雲の間から太陽が顔をのぞかせたようにまぶしくて、女の子たちは思わず一歩後ずさってしまった。

 

「もう、ユウリくんってかわいいんだから〜っ!!

「ほんと、かわいいよね〜〜〜〜〜〜っ!!

帰り道。

集団戦法に勝利した女の子軍団は意気揚々と引き上げ、そして、もだえていた。

「笑った顔なんて、チョーかわいい!」

「新聞委員会のアンケートで『弟にしたい男子』ぶっちぎりの第一位になったの、わかるよね」

「わかるわかるー!」

「それに、おうちはお金持ちだし、イギリスの貴族だし〜」

女の子たちの足が揃えたようにピタリと止まった。

顔を見合わせ、にんまりと笑みを浮かべた。

「「「ホワイトデーが楽しみよね♪」」」

  

 

 

 

 

 

一方、たくさんのチョコを抱えて帰宅したユウリは、

「こんなにもらったよ」

と、得意そうに姉に見せた。

セイラはふふんと笑い、弟の額をちょんとつついた。

「まだまだね」

そう言って傍らにある大きな紙製バッグを指さした。

ユウリは目を見張った。大降りのバッグいっぱいに詰め込まれた赤やピンクのパッケージ.

 

しかもバッグは一つではなかった。

「お姉さんにしたい女子」アンケート断トツ第一位であるセイラがもらったチョコレートの数は半端ではなかった。

 

一ヵ月後、フォーダム家の三月特別会計に「ホワイトデーお返し」の項目が設けられたかどうかは、定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき?蛇足?>

女の子は小さくても女。けっこう上手いぞ、計算高いぞ!

という、ありがちな話で失礼しました(^_^;)

ちびユウリってすごくかわいかったと思うのですが、いかがでしょう?

 

 

 

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