* プラチナ・タイム *

 

 
「遅れてごめん。今どこ? ………え、地下の書店?」
携帯電話で話しながら大通りを歩いていたユウリは、
相手が指示した待ち合わせの場所を探そうと、きょろきょろと辺りを見回した。
 
秋の午後、早くも日は傾きかけており、まぶしい残照がユウリの目を射る。
ここ、ロンドン有数の繁華街であるオックスフォードストリートには、有名デパートやブランドショップが軒を連ねている。
探していたデパートを数十メートル先に見つけたユウリは、手にした旅行鞄を握りなおし、速度を上げて歩き出した。
地方に出かけていたのだが、列車が遅れたために待ち合わせ時間に遅れてしまったのだ。
携帯で連絡を取り合っていたとはいえ、少しでも遅れは取り戻したい。
 
建物に入ると、すぐにエスカレーターで地下へと下っていき、奥の書店コーナーへと足を向けた。
相手を探して店内を見渡すと、向こうもユウリを探していたらしい。
そう遠くないところに、ユウリに向かってかるく手を振るシモンの姿が見つかった。
琥珀色のサングラスをかけて顔が隠れているが、あの優雅な立ち姿は見間違えようがない。
(シモン!)
駆け出したい衝動を押さえながら、足早に近寄ると、開口一番、両手をパチン!と合わせて謝った。
「ごめんっ! 遅れた!」
目の前で手を叩く動作を見て、シモンは驚いたように軽く目を見開いた。それから苦笑してサングラスをとった。
「それは、日本の挨拶? それとも、スモー・レスリングの技かい?」
目を細めてユウリを見るシモン。親しみのこもった、やわらかな眼差しだ。
遅刻したことに恐縮しつつ、日本人に対する誤解を解かなくてはと、ユウリはブンブンと首を横に振った。
「違うよ。挨拶じゃなくて、謝っているんだ。」
「謝る?」
「だいぶ待たせてしまったでしょう?」
まだ息を切らしながら謝ると、シモンは軽くかぶりを振って、手にした書店の袋を掲げて見せた。
「とんでもない。有意義な待ち時間だったよ。」
書店のロゴの入ったビニール袋には、数冊の本が入っていた。
シモンの書店好きを知っているユウリは、ほっとして肩の力を抜いた。
シモンはユウリの肩に手を回してそっと促し、並んで歩き出した。
「こちらこそ、こんなところで待ち合わせをして悪かったね。わかりづらかったかな?」
「ううん。でも、ホテルで待っていてくれてもよかったんだよ?」
ユウリがたずねると、シモンは軽く肩をすくめた。
「部屋でじっとしているのは退屈だし、かといってロビーで待っていては、知り合いに会うかもしれない。それも面倒でね。」
(なるほど、それで書店を指定したのか。)
時間を無駄にしないための合理的な理由だけかと思ったら、やはり御曹司には御曹司なりの苦労があるらしい。
大変なんだなあとしみじみ思っていると、当のシモンはさらりと恐ろしいことを言った。
「要するに、君を待つ時間を誰にも邪魔されたくなかったんだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ユウリは思わずくらりと傾きそうになった。真顔で面と向かってこんなことを言うなんて・・・
これだからふらんすじんはっ!

 

 
ふたりは、オクスフォード・ストリートから歩いてクラリッジスへ向かった。
目抜き通りから、ほんの一ブロックしか離れていないのに、赤いレンガの落ち着いた建物の周囲は、
都会の喧騒から超越しているように見えた。
金モールの立派な制服を纏ったドアマンが恭しく開けたホテルのドアをくぐったユウリは、空気がさっと変わるのを肌で感じた。
大理石のロビー、サロンでお茶を楽しむ人々のかすかなざわめき、ピアノ演奏、
大きな花瓶に飾られた色とりどりの花々―――華やかで優雅な空間。
ここは、世界中からセレブリティが集まる社交場でもあるのだ。
ベルボーイがユウリの荷物を受け取り、ふたりをホテルの部屋へと案内した。
 
「コンサートは何時からだったっけ?」
「八時から。その前に食事に行こう。アイヴィーでいいかい?」
二間続きのホテルのベッドルームでネクタイを結びながらユウリが尋ねると、バスルームからシモンの応えがあった。
「え、アイヴィーって、予約がとれたの?」
「まあ、なんとかね。」
言いながら、身支度をすっかり終えたシモンがバスルームから現れた。
声に惹かれるように、ふと顔を向けたユウリは、そのまま目を吸い寄せられてしまった。
シモンは、スーツ姿がよく似合う。
シャツやセーターなどのラフな服装を着てもモデルのように似合うとは思うが、
上質な仕立てのスーツに身を包んだシモンは、まるで王侯のように侵しがたいカリスマ性を感じさせるほどで、
何度見ても見とれてしまうユウリだった。
今夜の装いは、細いストライプが入った濃いグレーのシングルスーツだった。
あまりかしこまった演奏会ではないので、正装はしていない。
しかしタイとチーフはつやのある白いシルクで、ネクタイにはペイズリーモチーフが同色で織り込まれている。
ごく薄いブルーグレーのシャツが、襟元の印象を引き締め、全体をすっきりとスマートにまとめている。
 
放心したかのように自分をじっと見つめるユウリを見て、シモンはわずかに首をかしげて促した。
「支度は?」
はっとして時計を見ると、もうすぐ車が来る時間だった。まずいっ!
「ごめん、急ぐよ」
ユウリは、ベッドの上に広げた荷物の中から黒革の箱を取り上げた。
蓋をあけ、中を覗き込んで、小さく叫んだ。
「あっ」
驚いたような声に、シモンが横から覗き込む。
「カフリンクス? これがどうかしたのかい?」
「う、うん・・・」
ユウリは、困ったように眉を寄せた。
「エヴァンズがスーツや荷物をまとめてくれたんだけど・・・これは間違えたのかなあ」
シモンは優雅に首をかしげた。
「シルバーだね? いい品物じゃないか。君に似合いそうだよ」
「ありがとう。家に代々伝わるものだから。でも、違うんだ、これ、チェーン式だから一人ではつけられないんだよ。」
「なんだ、そんなことか。貸して」
「え・・・・ええっ?」
大げさなほど驚いて、ユウリは後ずさった。
(シ、シモンに執事の真似を?)
一方、シモンは箱をひょいと攫うと、ねじ式のカフリンクスを器用に緩めた。
それから、ユウリの前に片膝をつき、上目遣いにちらっとユウリを見て、いたずらっぽく笑った。
「お坊ちゃま、お手をどうぞ」
「・・・・シモン・・・・」
一体何をやっているのかと、呆れと戸惑いをミックスさせて名を呼ぶが、当の本人は一向に気にしない様子で、
ユウリのスーツからのぞくシャツの袖口に、器用な手つきでカフリンクスを留め始めた。
ユウリの装いは、深いミッドナイトブルーのシングルスーツに上質なコットンツイルのシャツ、
レジメンタルタイという落ち着いた装いだ。
カフリンクスを留めてやりながら、シモンは目を細めてユウリを見た。
ほっそりとした手首を包む袖口からかすかに見える銀のシンプルなカフリンクスが、
まるで夜空に光る小さな星のようにアクセントを添えている。
さりげないお洒落だった。
この装いをコーディネートしたフォーダム家の執事は、なかなかどうして、センスがいい。
(ひょっとして、わざとチェーン式にした?)
そんな穿った見方もできなくはないが、おそらくは、いつも執事自身がしていることなので無意識に選んでしまったのだろう。
自分ひとりでは付けられないカフリンクスは、いわば貴族の証ともいえた。
ユウリは、まるで執事か従者のようにカフリンクスを留めるシモンの指が器用に動くのを、少しこそばゆい思いで眺めていた。
前髪が額に垂れ、シモンの視線を隠している。短い時間だったが、ユウリは落ち着かなげに目をそらした。
 
 
 
コンサートの第一部が終わり、ホールの照明が明るくなる。席を立つ観客の静かなざわめきがホールに広がった。
周りの観客が席を立っても、ユウリは座席に背をもたれかけたまま、ぼうっと放心したように動かなかった。
いや、動けなかったという方が正しいかもしれない。
今夜のコンサートの演目は、ヴィエニャフスキーのヴァイオリン協奏曲とチャイコフスキーの第四交響曲である。
このホールを本拠地とするオーケストラが、東洋出身の若い女性ヴァイオリニストを迎えて共演したヴァイオリン協奏曲は、
曲の出だしからユウリの五感を支配した。
オーケストラの情熱的な響きに呼応して官能的にするりと身をひるがえすヴァイオリンの独奏。
たった四本しかない弦を自在に弾きこなし、眩く、深く、心をゆさぶる音を引き出すソリストの力量。
真にすぐれた演奏家は観客を別世界に誘うというが、
今夜のソリストはまさにその称号を受けるに値する、稀代の演奏家になるだろう。
 
「ユウリ、少し外の空気を吸わないかい?」
そうシモンが話しかけてくるのが、どこか遠くから聞こえるように感じられた。
「うん・・・」
二人はロビーに出て、シモンは予約した飲み物をとりにバーカウンターへ向かった。
その背中を見るともなしに見送りながら、ユウリは壁に背をつけて、ふうっとため息をついた。
皮膚一枚の下を、あぶられる感覚。
身の内からふつふつと湧き上がる熱っぽい波。 
つややかな大理石の壁に、そろりと手を這わせる。ひんやりと指を冷やす感触が心地よかった。
身のうちに高ぶる熱を奪い去ってくれるような、冷ややかさが。
 
「ユウリ、おまたせ」
シモンが戻ってきて、細身のシェリーグラスを差し出すが、ユウリの目にも耳にも入らなかった。
いや、聞こえてはいたのだが、幾重にもフィルターがかかった遠くの世界の出来事のように実感がなく、
自分に向けられたものだと思わなかったのだ。
呼びかけても、ちらりと見ることもなく目をとろんとさせているユウリに、シモンは身をかがめ、
今度はもう少し声を大きくして呼びかける。
「ユウリ」
びくんと体がはね、目をぱちぱちさせたユウリは、脇に立つシモンに気づいて、はっとする。
まだぼうっとして夢から覚めない風情に、シモンは失笑する。
「冷たいシェリーはどう?」
「あ、ありがとう」
恥ずかしそうにグラスに口をつけても、まだユウリは半分夢の中にいるかのようだ。
漆黒のけぶるような瞳を伏せ、体の中に残る曲の残響を追っているかのように、無言で、閉じている。
すぐとなりに立っているのに、存在を無視されてしまったシモンは、「やれやれ」とシェリーをあおった。
 
ロビーには人があふれ、あちこちで飲み物を手にした老若男女が口々に今夜の演奏のすばらしさを語り合っている。
ソリストのファンらしい一団が頬を輝かせて上機嫌で演奏のすばらしさを称えているのもほほえましい光景だ。
ロビーの華やかなざわめきを肌で感じながら、シモンは脇にたたずむユウリの静かさが気になった。
いちおう二本の足で立ち、目を開いている様子を見ると、意識はあるようだ。
しかし、まるで魂の何割かをどこかに持っていかれた抜け殻のようにも見える。
ついそんな想像をしてしまい、シモンは眉をしかめた。
 
気を引くために何か言おうと口を開く。
「前半のコンチェルトはすばらしい演奏だったね」
ユウリはわずかに目を上げ、シモンに同意するように頷いた。
「うん。・・・・・・・・すばらしかった」
あまりに静かな声だったので、疲れたのかもしれないと思った。
そこで、ユウリの二の腕をとると、何気ないそぶりで話しかけながら、ロビー奥へとゆっくり歩いていった。
「後半のチャイコフスキーも楽しみだね。僕は四番が好きなんだ。メロディーラインが美しくて・・・」
ロビーの奥にはどっしりとしたビロードのカーテンがひだになってたれさがり、スツールが何脚か置かれている。
そこに並んで座り、会話もかわさないままロビーを眺める。
できのよいコンサートに高揚するロビーは、本来ならば居心地がよいのだが、どこか様子のおかしいユウリを置いておくのは気懸かりだった。
すぐにここから出て連れ帰るべきだろうかともちらりと考えた。
 
一方、ユウリは、うまく言葉が形をなさなくて困っていた。シモンが話しかけてくるのは、わかっていた。
温かなエネルギーが自分に向かって流れてくるのは心地いい。
暖かな繭の中にくるみこまれてしまったようで、
話しかけられる言葉もほんわりと聞こえる。
だから、応えようとすると言葉がぎゅっとまとまらなくて、うまく答えられないのだ。
「・・・・・・」
困ってしまったユウリは、ごまかすようにグラスを口にして、シモンからわずかに視線を逸らした。
シモンは、珍しく怒りを感じた。こんなにそばにいるのに、自分を見ようともしないユウリに。
シモンは、少し力をこめてユウリの肩を叩いた。
「そろそろホールに戻ろうか」
「え? ・・・うん・・・うん。そうだね。」
とりあえず、返事が戻ってきたことに、ほっとした。
 
観客の鳴り止まぬ拍手にソリストが再登場し、ヴァイオリンの小品を弾いた。
情熱的な協奏曲とは打って変わった可愛い曲だったが、また違った魅力があり、
すでに演奏にしたたかに酔っていたはずの観客も惜しみない拍手を送った。
ユウリは、ほうっと夢心地で機械的に拍手を送っていた。シモンは警戒するようにあたりに目を走らせた。
「ユウリ」
名前を呼ぶと、今度はちゃんとシモンの方を向いた。
少しぼうっとした表情ではあったが、シモンにむかって笑いかけたことに安堵して、シモンはちらりと微笑みかけた。
「よかった」
ユウリは、何も応えず、きょとんとしている。
いつもだったら「何が?」と問い返してくるはずだ。
やはりダメかと重々しくため息をつき、シモンは一瞬で気持ちを切り替えた。
「今夜は疲れたみたいだね。もしよかったらホテルで一休みしないかい?」
本当は、コンサートがはねたあとに車でハムステッドの自宅まで送り届けようと考えていたのだが、
なんとなくそうしない方がいいような気がしたのだ。
丸く見開いた目でじっとシモンを見つめたユウリは、
言われた言葉が何倍もの時間をかけてやっと届いた様子で、こくんと一つ頷いた。
子どものように無邪気なしぐさに、シモンの胸がちくりと痛んだ。
 
 
二人は、再びそろってクラリッジスに戻ってきた。
先ほど着替えたホテルに戻ったのは、ユウリにもわかった。
シモンが手を引いたり先を歩いたりしてくれるのもわかった。
安心してその姿についていけばいいのだということも。
 
しかし、自分でもおかしいと思うくらいに意識が表面に出てこなかった。
自分の体が動いているのを、モニターごしに感じているようなヴァーチャル感。
言葉も出てこなかった。
体の中には、まだあのヴァイオリンの音色が鳴り響き、オーケストラの多彩な音が満ちていた。
エレベーターの函に入り、鏡張りの壁に自分の姿が映っているのが目に入った。
あそこにいるのは、自分。
そう思ったら、不安が襲ってきた。
目には見える。でも、自分はここに本当にいるのか?
ふわふわとした意識をつなぎとめておかないと不安で、おずおずと手を伸ばして、触ったものをきゅっと握り締めた。
シモンのスーツの袖口だった。弾かれたようにシモンはユウリを見下ろした。
一瞬、厳しい色を目に浮かべたが、すぐにその色は消えた。
袖を握り締めたユウリの手の甲を、反対側の手の指先で軽くとんとんと叩いた。
  とんとん・・・とんとん・・・
やさしいリズムに安心したのか、ユウリの体から次第に力が抜けていった。
 
部屋に入ると、シモンはユウリを幅広のソファに座らせた。
「だいぶ疲れたようだね」
返事はない。ユウリの額に掌を当てて熱を測る。熱はない。
「上着を脱いで、楽にして」
そう言って、シモンは自分も上着をとり、ネクタイの結び目に指を入れ、襟元をくつろがせた。
ユウリも言われたままに、のろのろとした動きで上着を脱ごうとしている。
その様子を横目で見ながら、部屋のポットでコーヒーを入れた。
上着を脱いだユウリは、ソファにぐったりと身を投げ出し、宙を見つめていた。
両手に持ったコーヒーのカップを寄木細工のサイドテーブルに置いたシモンは、
小皿にチョコレートが盛られているのに気がついた。
 
ユウリのとなりに座ると、小さな丸い球のチョコレート一つつまみ、
金色の包み紙をはがし、ユウリの口元に寄せる。
こちらを見ているようで目の焦点が合っていないユウリを目を細めて見ながら、やさしくささやく。
「ほら、口を開けて」
思った通り、従順に唇を開くユウリ。シモンの目が、わずかに細められる。
開いた唇にチョコレートをそっと押し込み、ユウリが受け入れるのを待つ。
やがてユウリがチョコレートを認識して舌を出し、ころりと受け入れて舌の上で転がし始める。
喉がこくんと鳴るのを見て、シモンはかすかに笑みを浮かべた。
「おいしい?」
問いかけに対するユウリの答えは、言葉ではなかった。
少し口を開いたので、シモンはもう一つチョコレートをとろうとテーブルに手を伸ばした。
そのとき、指先に先ほどのチョコレートが溶けて付いていることに気がついた。
 
いつもなら、そんなことは思いつかなかったに違いない。
だが、このときは何かが背中を押した。
 
チョコレートのついた指先をユウリの唇に寄せた。
数瞬の間があって、ユウリは薄桃色の舌でぺろりとチョコレートを舐めた。
ぞわりと背筋をかけのぼる痛み。
シモンは肩をそびやかし、身を硬くしてその感覚をやりすごした。
射抜くような目でユウリを見るが、ユウリはチョコレートのなくなった指にちろりと舌を這わせている。
指先と硬い節の感触を確かめるような、甘やかな舌の動き。
シモンは目を細めて息をつめ、指先をくるりと返してユウリの口腔をなでながら指を抜き取った。
口蓋をなでられる指先に感じたのか、身をすくませて、指の行方を目でおいかけた視線。
薄く開いた唇に誘われて、ユウリの首筋に手をかけて引き寄せる。
桜貝のような唇が、ふふと笑みをもらした。
「甘い」
やっと聞くことができたユウリの声も、甘く蕩けるようだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
     *  *  *
 
 
 
 
 
 
 
 
「覚えていない・・・」
「覚えて、いないだって!?」
 
翌朝。
ルームサービスの朝食の皿がところせましと並べられたテーブルについたユウリは、
絶句したシモンと向かい合って亀のように首をすくめていた。
シモンの様子から判断すると、自分は夕べとんでもない醜態をさらしたらしい。
夕べのコンサートが終わってからの記憶がないのだ。
かろうじてホテルに戻ってきたのはおぼえている。
ぼーっとしてるあまり、家に帰すのが不安になったらしいシモンが一泊させたのもまあ理解できる。
いや、それもよく考えるとかなり恥ずかしいことじゃないかと今ならば冷静に突っ込みを入れるところだけれども。
しかし、ただ一泊しただけなら、このシモンの驚きようは一体なんなのだろう? 
いつもあんなに落ち着いているシモンがこんなに驚くなんて・・・・!
(いったい僕は何をやってしまったんだ・・・・!?)
戦々恐々として落ち着かなく身じろぎするユウリの様子を見て、シモンは全身の力を抜いて息を吐いた。
「いや、まあ・・・わかっていたけどね。うん、予測はついたことだったよ。いいんだ、その方が・・・うん」
「・・・シモン?」 
ぶつぶつとつぶやいて自分ひとりで無理やり納得してしまったシモンを、
ユウリはいぶかしげに眉を寄せて見上げた。
 
朝食を食べ始めてからもシモンはどこか落ち着きがなく、そそくさと食べ終わって新聞を開いてしまった。
「・・・ごめん、ちょっと失礼する」
ヨーグルトをスプーンですくって口に運ぶユウリの口元を正視できなかった・・・・・・なんてことは絶対に秘密。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ネットでこんなもの晒してしまってすみません!
どうしてうちのシモンくんはこうもオヤジなんだか・・・
 
 

 

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