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  Slumbering fair  見本ページ

この話は、シモンとユウリの未来を描いたパラレル小説です。

 

 

1 岬の舞台 

 それは、いつもの週末旅行だった。

 二人で幾度となく出かけた旅先の、海辺の町の午後。楽しいひとときはいつものように穏やかにすぎていく――――はずだった。 

 二人が週末を利用して旅行に出かけるのは、これで何度目だろうか。

 今、二人がいるのは、海辺の劇場である。

 劇場といっても建物の中ではなく、海を見下ろす高い崖の上に作られた野外劇場だ。

 この劇場は、海へ向かって傾斜し、やがて断崖となって海へ落ちる岩山の上に、自然の地形を生かして作られている。

 断崖の上にささやかな舞台が設けられ、陸側に向かった斜面には階段状に座席が配されている。

 つまり、客が座席に座って舞台を見下ろせば、俳優たちの背後にはコーンウォールの明るい陽光に照らされた大海原が広がるというわけである。

「別れがたいのは、僕もいっしょだよ。いつまでも、こうしていたい」

「珍しいね。シモンがそんなこと言うなんて」

「……君と会った週末は、いつも思うよ」

 シモンはすっと立ち上がり、ユウリに手を差し伸べた。

「ちょっとだけ、舞台に立ってみないかい?」

    

2 おしかけパーティ  

「ほらほらほら、食べろよ、僕の愛がこもったピザを」

 オニールがやってきて、ピザのピースでシモンの皿にタワーを築こうとした。

「愛じゃなくて、恨みじゃないの?」

 すかさず突っ込んだのはリズ。

「もう結構。ありがとう、オニール」

 皿の上を手で覆う仕草でチーズと炭水化物の塔が高くなるのを阻止したシモンは、鷹揚に首をかしげた。

「何か、僕に恨みがあるのかい?」

「あるのかい、だって? 当たり前じゃないか。ユウリが一人暮らしを始めるって聞いたのに、蓋をあけてみれば何のことはない、ベルジュがユウリを囲っただけじゃないか」

 シモンの眉がぴくりと跳ね上がる。

「囲うだなんて、聞き捨てならないな」

「オニールは誤解しているみたいだね。ここはルームシェアだよ。家賃は折半している」

 隣から助け舟を出したのは、ユウリだった。オニールが目を丸くする。

「え? ベルジュが全額出しているんじゃないのか?」

「違うよ。だからこんなに狭いんじゃないか」

 あっけらかんと笑って、ユウリは頷いた。

3 掌 (たなごころ) 

 

 食事を済ませ、シモンをベッドに追いやる前に、ユウリにはすべきことがあった。

「シモン、ソファに座って」

「うん?」

 洗面所で歯を磨いたシモンは、言われた通りに大人しくソファに座る。そこへ、ユウリが大きなタオルを持ってやってきて、シモンの前に立ち、タオルを広げた。

「髪の毛、まだ完全に乾いていないでしょう? 拭いてもいい?」

「いや、そこまでやってもらわなくても……」

「いいから、今日は甘えて」

 珍しく強引な態度で、ユウリはタオルをシモンの頭にかぶせた。そして、あまり力を入れずにこすり始めた。

シモンも、されるがまま座っていた。ユウリの手は軽やかで優しく、マッサージされているようで心地よかった。

 十分にタオルドライしたあと、ユウリは軽く手櫛でシモンの髪を整えた。

 シモンは、ユウリの背中に腕を回し、そっと抱きしめるようにした。ユウリはくすっと笑って尋ねた。

「どうしたの?」

「甘えているところ」

「まるで、うちのクリスみたいだなあ」

 くすくす笑いながら、ユウリは年の離れた弟のクリスを抱きしめるように、シモンの頭をそっと包み込むように胸に抱きしめた。温もりのある重みを感じる。

シモンの腕の力が強くなった。

  ― 幕間 脈動 ― 

4 兆し     

男性たちは、正式なパーティではないのでタキシードの類ではないが、仕立てのよいクラシカルなスーツを着用した。

シモンはやや光沢のある黒いスーツに、パール色のオッドベストを合わせていた。

ビジネスでは着ない華やかな生地は、髪をかきあげた大人っぽいシモンに、とても似合っていた。

新しいゲストの娘は、終始、熱い目でシモンの姿を追っていた。

ユウリもシモンの姿を、つい目で追ってしまった。先ほどの口論の荒々しさがうそのように、今は落ち着いて見える。

(穏やかで理知的な表情の下に、どんな獣を飼っているのだろう)

そう思って、先ほどの胸の痛みが蘇った。

食卓での話題は豊富で、ゲストも楽しめるようベルジュ夫人エレノアが上手に話題をふり、盛り立ててくれた。

おかげでユウリもそれほど気後れせずに会話に参加することができた。

やがて、年頃の若い男女が会していたこともあって、話題が結婚の方へ流れていった。

「ユウリ君は、誰かいい人はいるのかい?」

ベルジュ家の当主ギョームが、相手をリラックスさせる柔らかい声で尋ねる。

ユウリは少し困ったようにほほえんだ。

「残念ですが、今は仕事の方も忙しくて」

「うちの息子が遊びに連れまわしているんじゃないかね?」

「いいえ、シモンには助けてもらっています。この間も食事を作ってもらいましたし」

 ユウリがそう言ったとたん、テーブルに小さなざわめきが広がった。

「お兄様が料理を?」

「それって食べられるお料理ですの?」

 双子たちの素直な疑問に、シモンは笑っただけで答えなかった。

「あ、あの」

 ユウリは、ギョームに思い切って切り出した。

「僕の両親は若くして結婚したのですけど、僕には早く結婚しろとは言わないんです。でも、やはり、父親としては早く……と思うのでしょうか?」

 我ながら直球だと思った。

   

5 繭        

6 月夜のバルコニー  

7 Slumbering fair  

8 夢の中へ

あとがきより  

   

今回は、シモンとユウリの踏み込んだ関係についてとことん描いてみようとチャレンジしたのですが、身に余る難題でした。

これが私の精一杯。生ぬるいというお叱りを受けそうですが、甘んじて受け止めますです。

自分史上最高にかっこわるくてかっこいいシモンを書こう! 

そしていちばん愛おしいユウリを書きたい! 

と、頑張りましたが、果たして?

 

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